《世界のすべてを理解しようとする男》

400字小説 公開:2026-1-18 作者:一本吉夫

その男は、世界のすべてを理解しようとしていた。

かつては、ファウスト博士が悪魔と契約し、レオナルドは無数のノートに世界を書き写し、アリストテレスは万物を分類した。

知は、まだ人の手の大きさに収まっていた。

だが現代では、知識は滝のように流れ落ちる。論文、動画、統計、炎上、真実と嘘。

その男は夜ごと画面を開き、理解した気になっては次へ進んだ。追いつけない焦りだけが蓄積されていく。

ある日、男はふと画面を閉じ、窓を開けた。風が吹き、雲が流れ、隣家の子どもが笑っていた。

その瞬間、男は悟った。。

世界を理解することはできない。だが、世界の中で理解しようとする自分を、生きることはできるのだと。

男は検索をやめ、歩き出した。