その男は、世界のすべてを理解しようとしていた。
かつては、ファウスト博士が悪魔と契約し、レオナルドは無数のノートに世界を書き写し、アリストテレスは万物を分類した。
知は、まだ人の手の大きさに収まっていた。
だが現代では、知識は滝のように流れ落ちる。論文、動画、統計、炎上、真実と嘘。
その男は夜ごと画面を開き、理解した気になっては次へ進んだ。追いつけない焦りだけが蓄積されていく。
ある日、男はふと画面を閉じ、窓を開けた。風が吹き、雲が流れ、隣家の子どもが笑っていた。
その瞬間、男は悟った。。
世界を理解することはできない。だが、世界の中で理解しようとする自分を、生きることはできるのだと。
男は検索をやめ、歩き出した。